場面緘黙(自著解説)

場面緘黙の一般的な症状は、家庭では家族と普通に会話ができるにもかかわらず、学校など特定の場面で言葉や声が出ない(発話の抑制)というものです。

他にも感情や表情の抑制(例:楽しくても笑顔にならない)や動作の抑制(例:普通の速さで歩けなくなる、トイレに行けない、箸が持てない)が見られることも少なくありません。一人ひとりの症状には個人差が大きく、状態像は多様であることも特徴です。

これらの症状のため学校を含め生活場面で様々な困難が生まれます。そして様々な配慮や工夫が必要となります。

場面緘黙について代表者が執筆・翻訳した著書や論文を紹介・解説します。(順次加筆中/本のタイトルはAmazonにリンク/論文題目はJ-STAGE、CiNiiにリンク)

園山繁樹著(2022)幼稚園や学校で話せない子どものための 場面緘黙支援入門 学苑社 (174頁)

幼稚園や小学校年齢の子どもたちを想定し、保育者、教師、保護者に役立つことを目的に執筆しました。日々の保育場面での配慮、発話が求められる授業場面、家庭や地域社会で保護者ができることを、具体的なエピソード交えて紹介しています。各1頁のコラムも12個付けました。

毎日の生活を安心して過ごすことができ、「話せる」に向かったスモール・スモール・スモールステップで、無理せず!しかしできるところから!少しずつ!前進していけることが肝心です。それによって子ども自身が自信、達成感、自己有能感を味わいながら、生活を主体的に楽しめるようにしていきます。

中核となる「四つの支援」は、①幼稚園や学校で安心して過ごせ、活動や授業への参加度を高める支援、②話せるようになるための支援、③家庭への支援、④社会生活に関する支援、です。いずれも子どもを中心にして保護者、保育者・教師、専門職が協働して実施できればベストです。

【目次】

第1章 場面緘黙の主症状と早期発見

場面緘黙はどういう状態?/場面緘黙の医学的診断基準から学ぶ/場面緘黙についてよくある誤解/場面緘黙の子どもは早期発見できる/早期発見のための担任の役割/コラム1「「場面緘黙」をめぐる用語問題」/コラム2「場面緘黙の発症年齢」

第2章 場面緘黙の症状と状態像の多様性

場面緘黙の症状と状態像の多様性/発話状況は「ちょっとしたこと」で変わる/随伴症状のある子とない子/併存症のある子とない子/場面緘黙の子どもはどのくらいいるのか?/コラム3「経験者から学ぶ場面緘黙の子どもの気持ち」/コラム4「日本の場面緘黙支援・研究事始め」/コラム5「私の場面緘黙支援・研究事始め」 

第3章 四つの支援と実態把握 

場面緘黙の子どもに必要な四つの支援/場面緘黙の子どもの実態把握はなぜ必要か?/実態把握の方法/コラム6「カナダ・マクマスター大学附属小児病院訪問記」/コラム7「場面緘黙と特別支援教育」/コラム8「合理的配慮」 

第4章 安心感と授業・活動参加度を高める取り組み 

すぐに取り組む4つのこと/担任の先生がキーパーソン/子どもと良好な関係を作る取り組み/活動や授業の参加度を高める取り組み/授業以外の参加度や安心感を高める取り組み/合理的配慮としての取り組み/子どもの気持ちを知る取り組み/友だち関係を円滑にする取り組み/保護者との連携協力の取り組み/ コラム9「段階的エクスポージャーと刺激フェイディング」/コラム10「保育場面で段階的エクスポージャーと刺激フェイディングを行った実践論文」  

第5章 話せるようになるための取り組み-スモール・スモール・スモール・ステップ- 

話せるようになるための「スモール・スモール・スモール・ステップ」/スモール・スモール・スモール・ステップの作り方/教育センターと学校との連携協力による支援事例(事例1)/母親・担任・特別支援教育コーディネーターへのコンサルテーションによる支援事例(事例2)/母親への遠隔コンサルテーションによる支援事例(事例3)/母親の記録と幼稚園と連携協力による支援事例(事例4)/話せるようになるためのその他の方法/子ども・家庭・学校・専門職の連携協力/安心感と参加度を高める取り組みの中に、話せるようになるための取り組みの要素が含まれている/コラム11「専門機関中心支援の初期段階の工夫」/コラム12「参考になる論文は無料でダウンロードして読める」

園山繁樹監訳(2018)『場面緘黙の子どもの治療マニュアルー統合的行動アプローチ』 二瓶社 (154頁)

UCLAのリンジー・バーグマン博士の「Treatment for children with selective mutism: An integrative behavioral approach」(2013)の翻訳です。バーグマン博士は場面緘黙に関する論文をたくさん発表されていています。場面緘黙の状態を簡易に調べることができる「SMQ(場面緘黙質問票)」は日本でも翻訳され広く用いられています。

この方法論の特徴は次の6点です。

・刺激フェイディング法と段階的エクスポージャー法を中核的な技法とする。

・クリニックをベースに、家庭や学校や地域場面で子どもと親と教師が協力して宿題を実施する。

・クリニックには1週間に1度、子どもと保護者が来談し、宿題の振り返りと次の宿題を決める。

・現在の状況を見える化する(感情チャート、クラスチャート、会話はしごなど)。

・合計20 回のセッションを標準とする。

・最終的には子どもと保護者が主体的に課題に取り組めるようにする(主体性移行)。

【目次】

第1章 セラピストのための基礎知識

第2章 治療開始前のアセスメントと心理教育(親セッション)

第3章 セッション1:治療への導入とラポート形成

第4章 セッション2:ラポート形成、ご褒美システム、感情チャート

第5章 セッション3:クラスチャート、会話はしご、エクスポージャー練習

第6章 セッション4ー9:初期のエクスポージャーセッション

第7章 セッション10:治療の中間セッション

第8章 セッション11ー14:エクスポージャーセッションの中間点

第9章 セッション15:エクスポージャーの継続と主体性移行の開始

第10章 セッション16-17:主体性の移行に留意したエクスポージャーの継続

第11章 セッション18-19:エクスポージャーの継続と主体性の移行/これまでの進歩の振り返り

第12章 セッション20:再発防止と終了

第13章 治療に当たって考慮すべきこと

付録A エクスポージャー課題の具体例

付録B 治療の前に使用するもの

付録C 治療で使用する用紙

【第1号】

「小学校入学を契機に場面緘黙症状を呈した女児の母親に対するオンライン・コンサルテーション」

【抄録】

選択性緘黙を示した小学校1 年生男児について、担任教師、特別支援教育コーディネーターおよび母親に対して大学教育相談室においてコンサルテーションを実施し、 1 年9 か月後に選択性緘黙の症状が顕著に改善した経過を報告した。原則として月に 1 回、教育相談室で合同コンサルテーションを実施した。緘黙症状を改善するために刺激フェイディング法やエクスポージャー法を基盤にしたスモールステップを作成した。各スモールステップで、担任教師とコーディネーターは教室で実施可能な方法を検討・実施し、母親はそれらについて対象児の考えを確認したり、一部を家庭で練習した。その結果、3 年生の6 月には授業で通常の形での発表や、休憩時間での他児との会話も問題がないレベルとなり、終結した。5 年2 か月後のフォローアップにおいても、発話や学校生活について特別な問題は生じていなかったことが確認された。 

【抄録】

本研究では、場面緘黙を示す幼児1名を対象とし、大学教育相談室での行動的介入の最初の導入期2セッションを含め、その後の心理治療の展開初期までの計10セッションの教育相談場面での手続きを報告し、その結果から刺激フェイディング法及び随伴性マネジメントの効果を検証することを目的とした。介入手続きは、プレイルームで一緒に活動する人と活動時間を刺激フェイディング法に基づいて調整した。従属変数は場面ごとの発話・表情・身体動作レベルであり、5段階のチェックリストを用いてレベルを評定した。発話は副セラピストとの遊び場面で増加し始め、その後、主セラピストとの学校ごっこ場面でも自発的な発話が見られた。表情も発話の変化に伴い、ほほ笑みや笑顔が増加した。身体動作は全セッションで緊張は見られなかった。本研究は主に教育相談場面で介入を実施したが、幼稚園と小学校場面でも緘黙症状がある程度改善した。一方、発話と表情レベルは活動内容によって変動が大きく、より効果的な参加者・活動の調整については今後さらに検討する必要がある。

【抄録】

行動療法の技法の有効性はさまざまな要因によって影響される。それらの要因をinterbehavioral psychologyパラダイムを用いて検討することの有用性を考察した。そのために,選択性絨黙の8歳女児の事例を提示し,刺激フェイディング法が有効であるための条件を検討した。その結果,特に刺激機能,状況要因,行動の歴史といったinterbehavioral psychologyパラダイムの構成要素を検討し,それらの要因をも操作することが有益であることが示唆された。

藤原あや・園山繁樹(2019)『わが国における保育場面で場面緘黙を示す幼児の支援に関する文献的検討』 障害科学研究, 43, 125-136.準備中

【抄録】

本研究では、わが国の幼稚園や保育所における場面緘黙幼児の支援に関する先行研究を概観し、保育場面における支援の在り方を検討することを目的とした。対象とした先行研究は、和文の学術誌および学会発表論文集に掲載された、幼稚園や保育所において場面緘黙の幼児への支援を実施している研究であった。そして、選定基準に適合した学術論文5編と学会発表論文集掲載論文5編を分析対象とした。対象児の年齢は2~6歳であり、対象児の多くは発話がないだけでなく、過度の緊張や集団活動や遊びに自分から参加しないといった特徴が見られた。保育者または外部支援者によって、話すことに関する支援、及び園生活や保育活動に関する支援が実施されていた。これらの支援を通して、対象児の発話や保育活動への参加の改善が見られた。しかし、分析対象とした学術論文は5編と少なく、今後は海外の保育場面における場面緘黙幼児の支援の現状を把握する必要がある。

書評論文・専門図書紹介記事

●Selective Mutism: An Assessment and Intervention Guide for Therapists, Educators, and Parents: Revised and Updated Edition (2023) Aimee Kotrba PhD & Katelyn Reed, MS著. KBS発達教育支援研究所紀要, 1, 31-33, 2024.

●書評論文 : マギー・ジョンソン&アリソン・ウィントゲンズ著「場面緘黙リソースマニュアル(第2版)」(2016).  人間と文化(島根県立大学松江キャンパス), 4, 205-213, 2021.