行動分析学(自著解説)

「行動分析学に出合わなかったら今の私はない」と言えるほど、私の職業生活に大きな影響を受けました。大学は大阪教育大学養護学校教員養成課程でした。2年生になって平野分校に移り、専門科目が始まりました。しかし、知的障害や自閉症の子どもたちの教育の「理論」がわかりませんでした。理論もなしに教育や指導ができるのか? 当時、フロイトの精神分析やユングの夢分析などの本を次々と読みましたが、障害のある子どもたちの教育理論とは思えませんでした。そんな時、平野分校の図書室で『子どもの発達におけるオペラント行動』(山口薫・東正訳,日本文化科学社,1972)に出合い、「目から鱗」の体験をしました。「ここに障害児教育の理論があった」のです。理論を基礎づけるエビデンス(実験によって再現できる行動原理)があったのです。

私は2023年3月をもって大学教員を引退しましたが、「行動分析学との出会いは間違っていなかった」と言い切れます。

行動分析学について代表者が執筆・翻訳した著書や論文を紹介・解説します。(順次加筆中/本のタイトルはAmazonにリンク)

園山繁樹・根ケ山俊介・山口薫訳(2003)『子どもの発達の行動分析  新訂訳』 二瓶社 (185頁) 

上に紹介した『子どもの発達におけるオペラント行動』との出会いは、本書を翻訳したきっかけになっています。その第2版として本書が書かれたのです(初版はビジュー先生とベア先生の共著、本書はビジュー先生の単著)。西南女学院大学に着任した年、実習施設のお願いのために児童相談所に元所長の根ケ山俊介先生と伺いました。待ち時間に私が今こんな本を読んでいますと原書を根ケ山先生にお見せすると、先生はびっくりしながら、「ビジュー先生はよく知っている。西南女学院のマロリーホールで講演をしたもらったこともある」と言われたのです。今度は私がびっくりしました。私の職業生活を方向づけた本の著者と懇意にしている人がこんなにも身近におられたのです。それからすぐに根ケ山先生と翻訳にとりかかり、訳書は1996年に『子どもの発達と行動分析』として出版されました。

本書は新訂訳としてタイトルを『子どもの発達の行動分析』と改め、山口薫先生にも加わっていただき、2003年に出版されたものです。山口先生は私たち以上に古くからビジュー先生と交流があり、「新訂訳にあたって」で次にように紹介されています。

1972年の『子どもの発達におけるオペラント行動』の翻訳出版に触れたのち、「1967年から68年にかけてフルブライト研究員として直接ビジュー先生の薫陶を受けた私と、私の紹介でその翌年、文部省の在外研究員として1年間同じく先生の指導を受けた東としては、わが国の研究者、教育実践家に、行動分析学の観点からの子どもの発達についての知見を広める上で、一定の貢献ができたことを誇りに思っております。当時、わが国のこの分野の研究はまだほとんど未開拓でした。」 

ビジュー先生には「日本語版への序」を書いていただきました。序は以下の文章で締めくくられています。

「最後にわたしは次のことを期待している。本書を学んだ学生がここで述べられた原理を実際に適用し、子どもの生物学的構造と、親、兄弟姉妹、親戚、友人、教師、その他その文化の社会的機関を代表する人びととの行動との間に生じる前進的相互作用を通して、1人の子どもがどのようなしてその子独自のパーソナリティを形成していくのかを理解してくれることを願っている。」

「本書を学んだ学生がここで述べられた原理を実際に適用し・・・」というのはまさに私のことでした。私が「1冊だけ勧める」とすればこの本です。

【目次】

第1章 序論

理論/心理的発達/自然科学

第2章 発達理論のコンテクスト

現代行動心理学の特徴/行動心理学,動物生理学,文化人類学の相互依存関係

第3章 子ども,環境,およびその連続的交互的相互作用

子ども/環境/子どもと環境の連続的交互的相互作用/発達段階

第4章 レスポンデント相互作用:特定の先行刺激に敏感な行動

馴化と増感作用/新しい刺激機能の発達:中性刺激と無条件刺激の対呈示/条件反応の除去/レスポンデント相互作用の般化/レスポンデント相互作用の弁別

第5章 オペラント相互作用:特定の結果に敏感な行動

オペラント相互作用における刺激の機能分類/オペラント相互作用の増化と弱化/中性刺激結果によるオペラント相互作用の弱化:消去/行動のシェイピング

第6章 オペラント相互作用の獲得

オペラント行動と結果刺激の時間間隔/コンタクト数とオペラント行動の強さ

第7章 オペラント相互作用の維持

連続強化/間欠強化

第8章 弁別と般化

弁別/般化

第9章 一次性強化子,獲得性強化子,般性強化子

獲得性強化子/一次性強化子/般性強化子/獲得性強化機能をもつ刺激と獲得性誘発機能をもつ刺激の違い/オペラント相互作用の要約

第10章 言語行動と言語相互作用

はじめに/パートⅠ:話し手を中心にした場合/パートⅡ:聞き手を中心にした場合

第11章 複雑な相互作用:葛藤,意思決定,情動行動

葛藤:相反する刺激機能と反応機能/意思決定/情動行動

第12章 複雑な相互作用:自己管理,思考,問題解決,創造性

自己管理/思考と問題解決/創造性

第13章 要約

<参考>

山口 薫(2010)「追悼 シドニー・W.・ビジュー先生行動分析学研究, 24(2), 48-52.

園山繁樹(2010)「ビジュー先生に捧ぐ」 行動分析学研究, 24(2), 53-55.


園山繁樹・根ケ山俊介・山根正夫・大野裕史訳(1998)『行動分析学から見た子どもの発達』 二瓶社 (321頁) 準備中

【目次】

1 科学

科学的理論の定義/科学における事実と理論/科学的法則/科学的理論/科学的理論の評価基準/科学的理解

2 発達心理学

発達心理学における行動の概念/行動に対する構造的アプローチ/発達心理学における研究と理論/行動変化への構造的アプローチに伴う問題/発達理論の評価

3 行動分析学

小史:(学習の)理論は必要か?/科学理論におけるスキナー/行動分析学における基本ユニット/環境/統制の位置/行動分析学における推論の役割/行動分析学的分類法/発達に関する行動分析学的見解/行動分析学的解釈の適用

4 記憶の発達

発達心理学における記憶の概念/乳児の記憶に関する研究/記憶に関する認知的見解と行動分析学的見解

5 運動の発達

運動発達における基本概念/運動発達における成熟と経験/律動的な繰り返し運動と反射/運動発達の構造的カテゴリー/随意的制御と不随意的制御/運動発達に関する認知的見解と行動分析学的見解

6 知覚の発達

感覚と知覚/視知覚行動

7 認知の発達

ピアジェ派の概念/認知発達における感覚運動期/模倣と対象の永続性/探索行動と対象の永続性

8 言語の発達

音声知覚/前言語の発達/話し言葉の発達/文法と文の産出/言語の氏と育ち/発達心理学のテキストにおける言語に関する行動分析学的見解の扱い

9 社会・情緒的発達Ⅰ:愛着関係

愛着の定義/ボウルビィの愛着理論の解釈/愛着行動/接近確立行動と接近維持行動/「恐れ」の行動の発達/社会・情緒的発達の行動分析

10 社会・情緒的発達Ⅱ:道徳性発達

道徳性発達に関する見解/向社会的行動の発達/共感

園山繁樹・野呂文行・渡部匡隆・大石幸二訳(2006)『行動変容法入門』 二瓶社 (488頁) 準備中