統合保育(自著解説)

統合保育について代表者が執筆・翻訳した著書や論文を紹介・解説します。(順次加筆中/本のタイトルはAmazonにリンク/論文題目はJ-STAGE、CiNiiにリンク

園山繁樹(1996)『統合保育の方法論』 相川書房 (130頁)

(本書は絶版で中古品は購入可能のようです)

私は筑波大学博士課程在学中に6年間、統合保育を実践されている私立このはな幼稚園に週1日アドバイザーとして勤務しました。その中で学んだり、研究したことを土台に本書を執筆しました。

最初の日、3歳児はみんな多動児に見えました。ほとんどじっとしていなくて、となりの子としょっちゅうおしゃべりをしているし・・・。「これが3歳児の姿ですよ」と園長先生。その時から私の学びが始まりました。子どもの姿(発達)、障害を有する子どもの子どもとしての姿、集団の中で障害を有する子どもたちを一緒に保育すること・・・。

当時、すでに前任者によって『全園体制』が出来上がっていました。すなわち、週1回、園長を含む全教員で、アドバイザーも参加して、特別な配慮を要する園児の保育の在り方についてカンファレンスの時間を持つ、というものです。担任だけの責任にせず、それぞれの要配慮児の特性や基本的配慮について全教員が共通理解し、園のどこででも対応できるようになるための体制でした。そのために、要配慮児については週間記録表(B5版1枚)に簡単にその週の様子を記録し、担任の考えも記入しておきます。カンファレンスではその記録に基づいて協議をします。私は障害児指導の(一応)専門家として意見(自閉症等の一般的障害特性、保育観察等から得られた当該幼児の特徴、応用行動分析学に基づく考え方や具体的な対応方法のアイデア等)を述べ、幼稚園の先生方は保育の専門家として意見を述べます。ここに協働が生まれます。

また、前任者によって『活動参加評価表』が作成され、要配慮児の幼稚園における24の場面(準備片付け、絵本、描画、製作、身体表現、絵本・紙芝居、音楽鑑賞、聞く、待つ、一緒に歩く、行事、集団遊戯、歌う、奏す、話す(1)、固定遊具、移動遊具、室内玩具、砂場、当番、ルールのある遊び、ごっこ遊び、劇遊び、話す(2))それぞれを5段階(無関心・無反応~卒園時の平均的姿)で評価し、最終的にはプロフィール表を作って子どもの姿を見える化していました。

統合保育実践を通じて、知的障害や自閉症のある幼児それぞれについての基本方針を見出していきました。以下はある自閉症の子どもの基本方針の例です(園山・秋元・伊東, 1989)

①担任教師との人間関係を形成し深めることを第1の目標とする。

②そのために、当初はこだわりや園内の徘徊等も副担任との個別的なかかわりの機会として捉える。

③ことばについては、当初は発話を特別に要求するようなかかわりは控え、遊びの中で自然な言葉かけをするとともに、その子が要求していると思われる物や行為を言語化しながら応じる。

④担任との人間関係が確立した後には、適当なかかわり場面において時間遅延法等で発話を促すことも試みる。

⑤担任と当該幼児の遊びに他児を参加させたり、くすぐり等当該幼児のへのかかわり方を他児に教える。

⑥当該幼児が関心を示した他児の名前を教えたり、「ちょうだい」「やって」等の言葉でのかかわり方のモデルを示すなど、遊びの中での他児へのかかわり方を教える。

⑦活動参加は当該幼児に可能なレベルで参加できるように援助する。

第4章で紹介したD君には後日談があります。D君が卒園して約15年後のこと、私がテレビに2,3分登場したことがあるのですが、D君とお父さんは偶然その番組を見られたそうです。D君は私のことを覚えていて、「園山先生と○○(個別指導)をした」などと懐かしそうに話していたそうです。(このエピソードはお父様からのお手紙で知りました。)当時の個別指導のことを覚えていてくれて、かつ、懐かしい思い出として記憶していてくれたことに、とても驚き、またとてもうれしく思いました。


【目次】

第1章 統合保育の意義

統合保育の発展と課題/障害のある幼児の保育形態/ノーマリゼーションと統合保育/統合保育の効果

第2章 相互行動パラダイム

相互行動パラダイムの前提/相互行動パラダイムの基本概念/相互行動パラダイムの特徴/統合保育における相互行動パラダイムの有用性

第3章 統合保育における相互行動的アプローチ

統合保育実践のエッセンシャル・ポイント/状況のなかでの保育/関係のなかでの保育/歴史のなかでの保育

第4章 事例研究

実践的事例研究の必要性と方法/自閉性障害のある幼児の事例研究Ⅰ:人間関係の変容と発話の出現過程/自閉性障害のある幼児の事例研究Ⅱ:他機関での指導との連携/精神遅滞のある幼児の事例研究:いわゆる問題行動のとらえ方/多動を伴う幼児の事例研究:多動への考え方

第5章 統合保育の状況要因と今後の課題

統合保育におけるエコロジカルな視点と状況要因/統合保育を取り巻く状況要因/今後の課題

園山繁樹(1994)『障害幼児の統合保育をめぐる課題—状況要因の分析―』 特殊教育学研究, 32(3), 57-68.

この論文は大学院生の時に6年間通わせていただいたこのはな幼稚園での統合保育実践の理論的まとめとして執筆したものです。このはな幼稚園ではすでに「全園体制」が出来上がっていたのですが、これは統合保育実践の土台として不可欠な要素です。保育者の力量だけでなく、それを全園で支えるという理念と実際の工夫が必要です。週1回の全教員でのカンファレンスが全園体制の柱でした。

もう一つは統合保育の「理念」も重要と考えました。当時、公立保育所では障害児保育についての自治体の理念によって自治体全体の統合保育の考え方・制度が異なっていました。ある市では分離保育あるいはメインストリーミングの考え方が中心で、障害のある子どもたちは通園施設、そして集団適応力が向上した場合には一般の保育所への統合という理念で実践されていたところもありました。反対に、明確な理念のもと、あるいはそれほど明確な理念はなくとも、すべての公立保育所あるいは指定保育所で統合保育を広く実践されていたところもありました。同じ統合(障害のある子どもたちと障害のない子どもたちを同じ場で保育する)といっても考え方も実際の在り方も異なっていたのです。このことを整理したのが本論文です。

整理の枠組みとして、当時私が強い関心をもっていた状況要因(setting factor)を少し拡大して適用しました。これは行動が起きている場にある諸要因で、行動の生起に影響を及ぼすものです(この言い方は不正確ですが・・・。査読の過程で、状況要因の本来の意味とは違っているのではないかとの指摘も受けましたが・・・)。そうすることによって、統合保育が当該児にとって有意義なものとなるために検討すべき要因がいくつか明確になるのではないかと考えたのです。【抄録】に示したように、(1)概念的要因、(2)障害を持つ幼児の要因、(3)プログラムの要因、(4)障害を持たない幼児の要因、(5)保育者の要因、(6)園の要因、(7)療育専門機関の要因、です。ほかに保護者の要因も必要だったかもしれません。

余談ですが、この本論文は比較的多く引用されているようです。先ほどGoogle Scholarで検索すると「被引用数14」でした。うち2件は自著論文ですので、実質12論文で引用されていました。最近でも2019年や2018年の論文で引用されていました。

【抄録】

障害を持つ幼児を障害を持たない幼児の集団の中で保育するという統合保育については、その利点が多くの研究者によって示唆されているが、実際に成功するための条件は複雑である。本研究ではわが国と米国の文献を概観し、統合保育を行う上で考慮すべき要因を相互行動的立場の状況要因の視点から分析した。分析した状況要因は、(1)概念的要因、(2)障害を持つ幼児の要因、(3)プログラムの要因、(4)障害を持たない幼児の要因、(5)保育者の要因、(6)園の要因、(7)療育専門機関の要因であり、これらの諸要因を検討せずに統合保育の有効性を論ずることはできない。また、今後の課題として、実際の統合保育場面での実践研究、保育者と療育専門家との共同研究、統合保育の専門性の確立、統合保育が困難な幼児への対策、保育場面以外での社会的統合を挙げた。

園山繁樹・秋元久美江・伊東ミサイ(1989)『幼稚園における一自閉性障害児の発話の出現過程と社会的相互作用 』 特殊教育学研究, 27(3), 107-115. 準備中

【抄録】

幼稚園において2年6ヵ月にわたりメインストリーミングの保育を受けた1名の自閉性障害男児について、特に発話の出現過程と社会的相互作用の変化を検討した。入園当初はほとんど無発話であったが徐々に模倣的な発話が増え、卒園時には3〜4語連語の発話が可能となった。社会的相互作用においても、当初は身体的な接触を拒否していたが徐々にかかわりが増え、卒園時にはことばによる自発的なかかわりが可能となった。これらの変化をもたらした要因として、教師や健常児との人間関係の形成と拡大を図ることが考えられた。発話は社会的なものであり、その出現と発展のためにはまず第一に幼稚園における様々な場面と活動を通して教師との人間関係を確立し、その後に発話を引き出すための手法を適用すべきであることを指摘した。

園山繁樹・秋元久美江・板垣健太郎・小林重雄(1989)『幼稚園における自閉性障害児のメインストリーミングー機会利用型指導の試み―』 特殊教育学研究, 27(1), 21-32. 準備中

【抄録】

これまでK幼稚園で行われてきた障害児のメインストリーミングの実践を総括し、応用行動分析に基づく自閉性障害児のメインストリーミングの可能性について考察した。その結果、以下のことが示唆された。(1)単に障害児と健常児の保育の場を一緒にするというだけでなく、意図的な教育的介入がなされなければならない。(2)子どもの社会的相互作用を深めるには教師の果たす役割が大きく、特に障害児との人間関係を深めることが重要である。(3)応用行動分析に基づく「機会利用型指導法」は、幼稚園におけるメインストリーミングの新たな方法として有望であると思われる。(4)メインストリーミングは障害児と健常児が共に生きていく社会の基盤といえるものであり、社会的環境としての幼稚園の文化をより有効なものにしていく努力が必要である。